悪役令嬢は荷が重い‼ ~断罪回避は諦めて、推しとのワンナイトが目標です~
悪役令嬢は荷が重い‼(後編)
大それた決意をしたあの日から、一週間経った。
結論から言えば、私の人生目標は達成された……半分は。
「やぁ、僕の可愛いアニス」
私は自室のベッドの中、いつの間にか添い寝していた男を前に硬直した。
私の推し、ジェイドである。
ジェイドとはワンナイトのはずが、実はこの一週間毎晩のようにこんなことになっていた。
えっ、何この爛れた生活。自分で自分にびっくりだよ。
でもでも言い訳をするなら、決して私のせいじゃない。私はあれ以来、彼に会いに行ってはいないのだから。ジェイドの方が毎晩私の部屋にやって来ているのだ。
念押しで言い訳をするなら、私は部屋の扉にも窓にもちゃんと鍵をかけている。それなのにどうやってか、気がつけば彼が部屋の中に……というかベッドの中に潜り込んでいるのである。
暗殺者ギルドマスターの実力、半端ない!
「……ジェイドは一度寝た女性とは、寝ないんじゃなかったの?」
当然のようにキスをしてきたジェイドに、私は彼の顔が離れたタイミングで尋ねた。
ジェイドのキャラ設定は、珍しいものが好きで束縛嫌いという暗殺者あるあるだったと記憶している。どう考えても私は彼が好む珍しいものには該当しないと思うのだけれど。
「初めてアニスと寝た日、君に飲ませたのは自白剤入りのワインだったんだけど」
「う、うん……それで?」
何だかいきなりパワーワードが飛び出した気がするが、ここで怯んでは話が進まない。私は平然を装って、ジェイドに話の続きを促した。
「どんな思惑が飛び出してくるかと思えば、アニスってば最中にずっと僕に好きとしか言わなかったんだよね」
ほぅっとジェイドが蠱惑的な溜め息をついて言う。
今もその一挙一動に釘付けの私だもの、自白剤でそんな頭の弱い子になっていたのも納得の一言です。
「僕に迫ってきた女はいっぱいいたけど、単純に僕が好きって人は初めてで。しかも幾ら自白剤を飲んだにしても、元から思ってないとあんな好き好き言い続けるわけなくて。ああもう、あんなに興奮したのは生まれて初めてだった! もう僕は君でないと満足できないよ、アニス!」
「ひゃあっ」
感極まったといったようにガバッと、私はジェイドに抱き込まれた。
そのまま彼の手が不埒な動きをし始めて……。ですよね! もう一週間も流され続けている私ですから知ってます!
「はぁ……僕のアニス。堪らない」
クンクンと私の匂いを嗅ぐジェイドに、どんな匂いなのか聞きたいような聞きたくないような。
――整理しよう。
えっと、単純にジェイドが好きで迫った人間は私が初めてだった。
それから私の推しへの愛が爆発した結果、それが彼の生まれて初めてレベルの大興奮へと繋がった。
それにより、私がジェイドが好きな珍しいもの枠に該当した……?
改めて、ジェイドのキャラ設定を思い返してみる。
ジェイドは集めたコレクションを大事にする。
そして宝石であればその種類の宝石の一番、古書であればその分野の古書の一番だけをコレクションとする。
その理屈で行けば、彼にコレクションされる女性は私だけということに。
な、何ということでしょう‼
「嬉しすぎて死にそう……」
「アニス!」
ジェイドに負けず劣らず感極まった私は、思わずギュッと彼を抱き締め返した。
そして私は翌日、いつも以上に記憶が飛んでいる朝を迎えたのだった。
時は流れ、本日は例の運命の日。
いや、運命の日だったというべきか。もう過去だ、既に夜も更けたので。
結局、私の断罪イベントは中途半端なまま終了した。
というより、中途半端になった結果、私に一切非がなく王太子の浮気が原因での婚約破棄ということで決着がついた。後日、陛下から内々に謝罪まであるという。
どうしてそんな展開になったのか。
それはおそらく、王太子がヒロインを妃にするためにした工作に関わった人間が、ことごとく大怪我したり大病を患ったりで卒業式を欠席したせいだ。だから婚約破棄宣言はできても、それに続く断罪ができなかった。
私が原作の原作および理沙さんの物語から変えたのは、ジェイドとの関係のみ。つまりこうなったのは……やっぱりそういうことなんだろう。
暗殺者ギルドマスターの実力、半端ない!(二回目)
使用人を暗躍させていないし権力者も取り込んでいないのに、断罪回避に成功してしまった。
「アニス、僕と結婚しよう」
今夜もまたベッドに潜り込んできたジェイドが、私の左手薬指を甘噛みしながら言ってくる。
「僕の身分に、どこか外国の王族の血統でも用意する。そうしたら、朝から晩まで僕は君の傍にいられる」
「そりゃあ身分を用意するくらいジェイドには簡単でしょうけど。でも、表舞台に立ってしまうとあなたの好きな自由から遠のきますよ?」
「そこで手放しに喜ばず僕の心配をしてくれる君を自由にできるのが、一番やりたい自由だから構わない」
ジェイドが甘噛みを止め、今度はその箇所を両手ですりすりし始めて……と思った瞬間には手品師も裸足で逃げ出す早業で、私の薬指にはルビーの指輪が嵌められていた。
顔を上げれば、そのルビーそっくりの瞳が私を優しく見つめていた。
「嬉しすぎて死にそう……」
「アニス!」
いつぞやの遣り取りが再来する。
これなら私もハッピーエンドを迎えられたと、言い切っていいよね?
悪役令嬢は荷が重かった。けれど、正真正銘の平凡なOLでも何とかなることもある。
後進のために、そうアドバイスを残しておく。
―END―
結論から言えば、私の人生目標は達成された……半分は。
「やぁ、僕の可愛いアニス」
私は自室のベッドの中、いつの間にか添い寝していた男を前に硬直した。
私の推し、ジェイドである。
ジェイドとはワンナイトのはずが、実はこの一週間毎晩のようにこんなことになっていた。
えっ、何この爛れた生活。自分で自分にびっくりだよ。
でもでも言い訳をするなら、決して私のせいじゃない。私はあれ以来、彼に会いに行ってはいないのだから。ジェイドの方が毎晩私の部屋にやって来ているのだ。
念押しで言い訳をするなら、私は部屋の扉にも窓にもちゃんと鍵をかけている。それなのにどうやってか、気がつけば彼が部屋の中に……というかベッドの中に潜り込んでいるのである。
暗殺者ギルドマスターの実力、半端ない!
「……ジェイドは一度寝た女性とは、寝ないんじゃなかったの?」
当然のようにキスをしてきたジェイドに、私は彼の顔が離れたタイミングで尋ねた。
ジェイドのキャラ設定は、珍しいものが好きで束縛嫌いという暗殺者あるあるだったと記憶している。どう考えても私は彼が好む珍しいものには該当しないと思うのだけれど。
「初めてアニスと寝た日、君に飲ませたのは自白剤入りのワインだったんだけど」
「う、うん……それで?」
何だかいきなりパワーワードが飛び出した気がするが、ここで怯んでは話が進まない。私は平然を装って、ジェイドに話の続きを促した。
「どんな思惑が飛び出してくるかと思えば、アニスってば最中にずっと僕に好きとしか言わなかったんだよね」
ほぅっとジェイドが蠱惑的な溜め息をついて言う。
今もその一挙一動に釘付けの私だもの、自白剤でそんな頭の弱い子になっていたのも納得の一言です。
「僕に迫ってきた女はいっぱいいたけど、単純に僕が好きって人は初めてで。しかも幾ら自白剤を飲んだにしても、元から思ってないとあんな好き好き言い続けるわけなくて。ああもう、あんなに興奮したのは生まれて初めてだった! もう僕は君でないと満足できないよ、アニス!」
「ひゃあっ」
感極まったといったようにガバッと、私はジェイドに抱き込まれた。
そのまま彼の手が不埒な動きをし始めて……。ですよね! もう一週間も流され続けている私ですから知ってます!
「はぁ……僕のアニス。堪らない」
クンクンと私の匂いを嗅ぐジェイドに、どんな匂いなのか聞きたいような聞きたくないような。
――整理しよう。
えっと、単純にジェイドが好きで迫った人間は私が初めてだった。
それから私の推しへの愛が爆発した結果、それが彼の生まれて初めてレベルの大興奮へと繋がった。
それにより、私がジェイドが好きな珍しいもの枠に該当した……?
改めて、ジェイドのキャラ設定を思い返してみる。
ジェイドは集めたコレクションを大事にする。
そして宝石であればその種類の宝石の一番、古書であればその分野の古書の一番だけをコレクションとする。
その理屈で行けば、彼にコレクションされる女性は私だけということに。
な、何ということでしょう‼
「嬉しすぎて死にそう……」
「アニス!」
ジェイドに負けず劣らず感極まった私は、思わずギュッと彼を抱き締め返した。
そして私は翌日、いつも以上に記憶が飛んでいる朝を迎えたのだった。
時は流れ、本日は例の運命の日。
いや、運命の日だったというべきか。もう過去だ、既に夜も更けたので。
結局、私の断罪イベントは中途半端なまま終了した。
というより、中途半端になった結果、私に一切非がなく王太子の浮気が原因での婚約破棄ということで決着がついた。後日、陛下から内々に謝罪まであるという。
どうしてそんな展開になったのか。
それはおそらく、王太子がヒロインを妃にするためにした工作に関わった人間が、ことごとく大怪我したり大病を患ったりで卒業式を欠席したせいだ。だから婚約破棄宣言はできても、それに続く断罪ができなかった。
私が原作の原作および理沙さんの物語から変えたのは、ジェイドとの関係のみ。つまりこうなったのは……やっぱりそういうことなんだろう。
暗殺者ギルドマスターの実力、半端ない!(二回目)
使用人を暗躍させていないし権力者も取り込んでいないのに、断罪回避に成功してしまった。
「アニス、僕と結婚しよう」
今夜もまたベッドに潜り込んできたジェイドが、私の左手薬指を甘噛みしながら言ってくる。
「僕の身分に、どこか外国の王族の血統でも用意する。そうしたら、朝から晩まで僕は君の傍にいられる」
「そりゃあ身分を用意するくらいジェイドには簡単でしょうけど。でも、表舞台に立ってしまうとあなたの好きな自由から遠のきますよ?」
「そこで手放しに喜ばず僕の心配をしてくれる君を自由にできるのが、一番やりたい自由だから構わない」
ジェイドが甘噛みを止め、今度はその箇所を両手ですりすりし始めて……と思った瞬間には手品師も裸足で逃げ出す早業で、私の薬指にはルビーの指輪が嵌められていた。
顔を上げれば、そのルビーそっくりの瞳が私を優しく見つめていた。
「嬉しすぎて死にそう……」
「アニス!」
いつぞやの遣り取りが再来する。
これなら私もハッピーエンドを迎えられたと、言い切っていいよね?
悪役令嬢は荷が重かった。けれど、正真正銘の平凡なOLでも何とかなることもある。
後進のために、そうアドバイスを残しておく。
―END―