生家で虐げられた令嬢は嫁ぎ先で溺愛スローライフを送ります

そんな私の淡々と話す様子にお父様はようやく口を開いた。
「確かに、数年領地運営が大変で帰宅していなかった。だが、知らせることは出来ただろう?」
 いや、会ってるときに全く様子がおかしいことに気づかない人にどう訴えろと?
 しかも、義母が私がお父様に手紙を出すのを黙って見過ごすわけがないじゃない。
 家令も執事もすべては女主人のお義母様に従っている状態で、味方なんて一人もいないのに。
「この状態を良しとしている、お義母様の目を盗んで私が手紙を出せるとでも?友人も、味方もいないこの屋敷から、一歩も外には出してくれないのに?食事も服もまともにくれない人が、手紙を出させてくれるとでも?」
 私の言葉にまたしてもぐうの音も出ない、そんなお父様に内心でやはりため息の嵐でしかない。
 さて、私を呼んでいったい何の話があったのやら。
 そろそろ本題に入ってほしいものである。
「今日呼んだのは、シエラに婚約の打診が来たことを伝えるためだ」
 婚約? 社交デビューもしていないのに?
 私はどうして婚約の打診が来たのか、どうにも想像がつかないがお父様は説明する。
「シエラは出生時にしっかり貴族として届を出しているから、侯爵令嬢として貴族名鑑に名前が載っている。それを見てか、アイラザルド辺境伯から婚約の婚約の打診が来た」
 アイラザルド辺境伯。
 通称、魔物辺境伯。
 魔の森に隣接する辺境の地の領主で魔物狩りの名人。
 風魔法と剣の使い手として有名であり、魔物狩りの名手で冷酷無比なる辺境伯と噂される人物。
 ただ、そういった領地にいるために皇都にはめったに現れず、噂だけが先行している人物である。
 私でも知っているくらいの有名人、それがアイラザルド辺境伯だ。
 ちなみに文字の読み書きや手紙の書き方なんかは、五歳までに詰め込まれた。
 最近ではお姉様の手紙の代筆もしているくらいだ。
 お姉様は、なんというか独特の癖の強い字を書くお人なので。
 お義母様の命でお姉様の手紙は私が代筆しているのだ。
 その中にはいろんなことが書かれているので、けっこう貴族界隈のあれこれを読んで知っていると言ったところだ。
 冷酷だけれど見た目は美丈夫というのが令嬢たちの手紙で覗えたが、実際に会ったことがある令嬢は少ないと言うし、それも事実か分からないところ。
 ただ、少なくともこの家でずっと過ごすよりは辺境伯と結婚したほうがマシな暮らしになるだろう。
 私には受ける一択なのだが、婚約に関しては家の当主たるお父様の考え次第。
 私に伝えるからには、受けるだろうけれども令嬢教育もしていない私で大丈夫かとか考えているのだろうか。
 お父様は、その後の言葉をなかなか出さない。
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