生家で虐げられた令嬢は嫁ぎ先で溺愛スローライフを送ります

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翌朝、昼に近い時間に起きたものの誰も怒ることなく、軽いブランチを用意してもらい食べるとクロムス様とクロイスト様も一緒に家族でお出かけすることになった。

 家族でお買い物もお出かけも、初めてなので私はいつになくうきうきしていた。

 フェザーライト家ではそもそも家族のお出かけに呼ばれないし、出かけないし、買い物なんて自由はなかったので自分の物と言えるものは下着くらい。

 それすら、どこから持ってきたんだろうってもの当てがわれていたので本当の私の物はお母さんが用意していた一冊の絵本だけ。

 それだけはいつもしっかり箱に閉まっていたので取られることはなかった。

 幼い子のための絵本、その一冊のみで私には母の肖像画もなければ思い出の品もない。

 あとは母のメイド仲間だった人から、どんな花や色が好きだったか、私が産まれるのを本当に楽しみにしていたことが聞けただけ。

 アイラザルド辺境伯領に行って、初めて、自分の服、靴、部屋、が与えられた。

 貴族の暮らしを自身がするのは、アイラザルド邸に住んでからだった。

 嫁ぐ前に、お兄様やマーマリナお義姉様にも服や靴は用意してもらったけれどそれは買い物に行ったのではなく用意してもらったものなので、あまり自分の物というか自分で選んだとは思えないので実家から持ってきた服に思い入れがない。

 アイラザルド邸で用意された今の服は、イジェンヌやクロムス様やサラサがあれこれといろんな生地やレースから選んでくれて、私の希望も聞いて用意してくれた服なので気に入っているものも多い。

 自分でものを選ぶ楽しさも、クロムス様と出会ってから知ったことだ。

「さぁ、今日は皇都観光とお買い物よ!私、娘とお買い物するのが楽しみだったの。付き合ってね、シエラ」

 ソフィア様の言葉に、私は頷いてその手を握って伝えた。

「私も、お母様とお出かけしたり、お買い物するのが夢だったんです。お母様、ありがとうございます」

 一緒に出掛けることを提案してくれて、それを楽しみにしてくれることがこんなにも嬉しいことも、初めての経験。

 私のお母さまとは叶わなかったけれど、クロムス様のお母様となら、この先何度でもお出かけできるのだと気づいて楽しみが増えたなと嬉しくなった。

「あぁ、シエラは本当に可愛いわね!今日は娘のお買い物だから遠慮はナシよ!いいわね、旦那様、クロムス!」

 お母様は扇でビシっとお父様とクロムス様に示すと、私を連れつつ足取り軽く馬車に乗り込んだのだった。
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