生家で虐げられた令嬢は嫁ぎ先で溺愛スローライフを送ります

「まぁ、元気は元気でしたね。過ごし方は見た通りメイドですけれど」
 にこやかにほほ笑んで私が言うと、お父様はお兄様に言った。
「シエラにアイラザルド辺境伯から婚約の打診が来た。受けることにするが、この家を出るまでは離れで面倒見てくれないか?」
 お父様が、少しまともなことを言っている?
 まぁ、ここにいてもメイド扱いしか受けませんものね。
 令嬢らしい暮らしってどうだった?くらいにすっかりメイド暮らしに慣れてしまっているから、家を出てもやっていけると踏んで家出の模索をしていたんだけれど。
 婚約で家を出れるなら御の字ね。
「マーマリナも、シエラを気にかけていましたから大丈夫だと思います。今からすぐにでも、離れのほうに移ると良い。持っていくものはあるか?」
 お兄様がそういうので、私は首を横に振って持っていくものがないことを告げた。
「いいえ、特に必要なものは無いですから。下着と替えのメイド服しかありませんし」
 そうして、話は済むと私はお兄様と一緒に離れへと移ることになるが、ソファーから立った私を見てまたもやお父様とお兄様は驚いた顔をする。
「シエラ、十七歳になったんだよな?」
 そんなお父様の言葉に頷くと、だから言っただろうという意味を込めて再び言う。
「ですから、お義母様は最低限しか食事も服もくださいませんので。背も伸びなかったし、肉も付かないんですよね」
 そう、私は平均的な十七歳には到底見えない肉付きと背丈でせいぜいがよく見て十五歳くらいだろう。
 私の発言に、お父様もお兄様もまさか、お義母様が虐待レベルの扱いをしていた事実にようやく思い至ったようで顔色が悪い。
「すまなかった、気づいてやれなくて……」
 お兄様がそんな風に謝ってきたが、まぁ過ぎた時間は戻らない。
 けれど、これからの生活で少しでもマシになればいいと思えるだけ良しとしようか。
 十二年は長いし、家族の情などすでに私にはないけれどね……。
 私が五歳の時、お兄様は十三歳で貴族学院の宿舎に入り勉強。
 五年で卒業し、十八歳から皇宮勤務でほぼ帰宅は深夜では私の事態には気づかないし、お義母様はお兄様やお父様がいるときは令嬢として扱うよう服装や使用人にも徹底させてたから。
 ここ数年は、本宅にお兄様もお父様も出入りが無くなってすっかり油断したのだろうけれど。
 とにかく、良いか悪いかは分からないけれどこの大変な生活からの脱出は、家出の検討中だったが叶いそうである。
「とにかく、急ぎシエラの服や身の回りの物を揃えよう。カイウェン、しっかり用意しろ。シエラは離れから一か月以内には辺境伯家へ預けるよう整えろ」
 お父様の言葉に父の専属執事のカイウェンは、頷いて答えた。
「かしこまりました、旦那様」
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