全部、先生が教えて。
初恋
翌日の昼休み。
いつも通り大きな岩で1人過ごす。
昨日は新刊を借りて帰るのを忘れていた。
「行波先生、好きです!」
……また聞こえてくる。
行波先生に告白をする生徒の声。
校舎内からも見えにくいこの場所。
人目につきにくいから告白スポットにでもなっているのかな。
今日は前とは違う人が告白をしていた。
「生徒とは…付き合えない。ごめんな」
「……何で、こんなにも好きなのに…」
…本当に、行波先生はモテる。
なのにどうして、私のことが好きだと言うのだろう。
「私、それでも…先生が良い!!」
今日の生徒は諦めが悪そう。
困ったような表情をしている行波先生に、その生徒は思い切り抱きついた。
「お、おい。離れろって!」
「嫌だ!!」
…心が、ざわついた。
跳ねる心臓。
どんどん心拍数が上がる。
他の人が行波先生に抱きついている光景に、強く嫌悪感を抱いた。
「……」
お弁当を置き、岩から降りる。
頭で考える前に、私の体は行波先生と生徒の方に向かって動いた。
「…行波先生、嫌がっていますよ」
「え?」
自分でも自分の行動に驚く。
私、こんな人では無かったのに。
「すみません、そこから見ていました。嫌そうなので、離れてあげて下さい」
こんなこと、言えるなんて。
その生徒は耳まで真っ赤にして先生から離れた。
そして唇を噛み締め、私を睨みながら校舎に向かって走って行った。
…自分でも分からない。
別に黙って見ておくだけでも良かったのに。
胸のざわつきが、抑えきれなかった。
「……秦野…」
「…先生、ごめんなさい。邪魔しました」
「邪魔じゃない。寧ろ…ありがとう。助かった…」
行波先生は私の腕を掴んで、どこかへ走り出す。
向かった先は、少し先にある倉庫の裏だった。
「秦野、今日も岩に居たの?」
「そうです。…全部、見ていました」
2人でしゃがみ込んで、体を寄せ合う。
こんなところ誰も来ないけれど。
誰か来たらどうしようという不安がよぎる。
先生と、2人きり。
そんなこと今まで何回もあったのに。
最近…そして今も、ドキドキして自分の心臓がうるさい。