全部、先生が教えて。

「…先生、本当に…どういうつもりですか」
「…ん?」
「ん、じゃなくて…。先生が生徒にこんなことしては駄目でしょう」


異常に心拍数を上げている。
自分でも分かる、痛みを感じるくらい煩い心臓。

経験したことのない感覚に、苦しさを覚えた。


「…俺が、秦野のこと好き。それは…答えにならない?」
「………」


ならない。
その一言すら、出てこない。


行波先生が私のこと好き?
…惚れられるようなこと、していないのに。


「…興味無い人達にモテても意味無いんだよ…」


頭がガンガンする。

どうしてこんな展開になっているのか、全く理解が追い付かない。




けれど…。




すっかり変わってしまった、図書室の空気感に負けて…



「………分かりました。…行波先生が…私に恋を、教えて下さい」



とんでもないことを、口走った。



驚いたような表情で固まっていた行波先生。
次第に表情を緩め、小声で言う。


「秦野……。恋愛ごっこ、する?」


口走ったものの。
行波先生に対する自分の思いが、まだ全然分からないから。

お試し、という意味で…。


「…はい」



恋愛ごっこを…受け入れた。


「…そうか」


ひと際嬉しそうな、行波先生…。


「じゃあ。はい、手…」
「……」


先生から差し出された、右手。
その手をそっと握った。


「先生の手、大きい…」
「秦野は小さすぎる」


握ったり緩めたり…強弱を付けながら優しく手を動かされる。


「秦野、顔が真っ赤」
「言わないで下さい…」


耳まで熱くなるのが分かる。


駄目なのに。
駄目だと分かっているのに。


今まで、あれだけ拒否してきた『恋愛ごっこ』に
微かな期待を抱き始めていた。









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