どこにもいかないで
「えっ!?」
疋田さんが目を大きく見開いた。
「オレとバスで話した時、澪もその場にいたから」
「……!」
「でも、澪はその時、佐田だって名乗っていて」
「佐田? むっちゃんも佐田だよな?」
と、疋田さんは考えるように言う。
「はい、本物の佐田 里保はむっちゃんのお姉さんです」
「ん? どういうこと?」
「澪はその人になりすましていたんです」
「……じゃあ、妹達はあの子が山姥ってことは?」
「知らないと思います。でも怪しんでいたかも」
「まぁ、ふたりとも勘がいいからな」
「もしも……、もしもふたりが澪のことに気づいていなかったとしたら、疋田さんからは話さないでほしいんです」
疋田さんは少し黙ってオレを見て、
「本当は山姥なんだって話さないでほしいってこと?」
と、聞いた。
オレは頷く。