どこにもいかないで
「澪が佐田 里保じゃないってことは気づいているかもしれないけれど、山姥だってことは知らないと思うんです」
「うん」
「……澪は、オレのクラスメイトで、ふたりにとっては同じ中学に通っていた人ってことにしておきたいんです」
「なんで?」
疋田さんはじっとオレを見ている。
「澪が山姥だったって、みんなに知られたくない。澪は……、みんなの記憶の中でも、中学生のままでいたいと思うんです」
疋田さんは、
「はぁ〜っ」
とため息を吐いて、こう言った。
「……まぁ、いいけど。オレから本当のことは話さない。約束する」
「ありがとうございます」
「でも、きっとこのことは噂か何かで広まると思う。人の口に戸は立てられぬって言うからな」
「はい」
頼んでおいて何だけど、多分、広まるんだろうな、と諦めてもいる。
でも。
薄ぼんやりした噂だけで終わらせてあげられたら、澪にとっては良いんじゃないかなって思ったから。