どこにもいかないで
「しっかし、高浜くんはすごいな」
「え?」
疋田さんはニッコリ笑った。
「高浜くんはさ、好きな子のために動ける人なんだな」
「……」
「すごいと思うよ。怖かったと思う。山姥を目の前にしてさ、食べられるかもしれない恐怖と戦いながらさ、オレ達猟師が猟銃を向けている中、あの子を庇うとかさ」
「オレは……」
「その強さ、大切にすればいいと思う。でもな」
と、疋田さんはオレの頭に手を置いた。
「高浜くんは、高浜くん自身のことも大切にしてやんな。簡単に命を投げ出すようなことしちゃダメだよ」
「……」
「優しさと強さがあるのは、マジで尊敬するけどさ」
と、オレの頭に置いた手を乱暴に動かしている疋田さん。
頭を撫でられて、涙が出て来た。
「……強くないです」
「強いよ」
疋田さんはガシガシとオレの頭を撫でる。
(オレは強くない)
だって。
捜索隊の人達が山小屋に来た時。
オレ、安心したんだから。