どこにもいかないで
オレもじんわり汗を感じつつ、
(早く秋になんないかなぁ?)
と、ぼんやり考えていたら。
前に立っていた女子が、
「山姥の話って聞いたことがある?」
と、その前に立っている女子に話しかけていた。
(山姥……)
「山姥ってあの、昔話とかに出てくる山姥?」
「そうだけど、なんか、いるらしいよ」
「いるって?」
「……いるんだよ、私達の村の山に。お腹を空かせて、私達人間を狙ってるんだって」
(何言ってんだよ)
中学生にもなって、そんな話を真剣にするなんて、ガキじゃね?
「……失踪者の人達、もしかしたら山で見つかるかもね?」
「えー……、どういうこと?」
「山姥が関係してるんだよ、きっと」
「えっ、それ、山姥に食べられてるとかそういう話に繋がるの?」
「……怖いよね」
「いやー……、いやいやいやいや……」
バスがやって来て、山姥の話は終わった。
座席に座ると彼女達の推しているアイドルの話をしていたから、そこまで真剣な気持ちで話していなかったのかもしれない。