どこにもいかないで

当然、澪からの返事はなくて。

それがもどかしく。

切ない気持ちになるけれど。



澪や駒澤くんに心の中で話しかけることは、誰にも言えない、オレだけの日課になっている。






「村の失踪者って、全くいなくなったらしいよ」
と、前の席の女子が隣の席の女子に話している。



「ちょ……っ、高浜くんに聞こえるよ」
と、隣の席の女子は、オレをチラチラ見た。



ふたりが気まずそうにしているから、思い切って話しかけてみることにした。



「……気を遣わせて、ごめん」



その言葉が、今の返事として正解かどうかはさておき、
「いや、こちらこそ……」
と、前の席の女子が申し訳なさそうに、オレに頭を下げた。



オレは、クラスの中で。

こんなふうに腫れ物扱いをされている。



佐田 里保を名乗っていた澪が学校に来なくなって。

また休みたくなったのかな、と噂する人もいれば。

実はあの人、佐田さんじゃないんじゃない?と、興味本位で面白がっている人もいる。



山姥だったとは、誰も噂していなくて。

それだけが、オレにとって救いだった。
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