どこにもいかないで
その日の放課後。
下校するために、バス停に行くと。
「こんにちは」
と、ベンチから立ち上がったのは、むっちゃんとひーちゃんだった。
「こんにちは。ふたりも今、帰り?」
「はい。でも、これからひーちゃんの家でゲーム会です」
「ゲーム会? ふたりともゲームするの?」
「はい。ゴリゴリのゲーマーです!」
と、むっちゃんが笑う。
それからやって来たバスに乗って村に帰る間、ふたりとゲームの話で盛り上がった。
村のバス停で、
「じゃ」
と、手を振ると、むっちゃんとひーちゃんも元気いっぱいに手を振り返してくれた。
去って行くふたりの背中の向こう。
山が見える。
“良かったね”
そう言われた気がした。
澪になのか、駒澤くんになのか、オレにはわからないけれど。
「うん、楽しく過ごしているよ」
と、オレは小声で返事した。
友達が出来て。
村の誰も失踪しない。
平和な毎日。
ずっと退屈だったあの頃より、のんびり、穏やかな気持ちでいられる。
この日常に、感謝しなくちゃいけない。