どこにもいかないで
オレは、
「大丈夫です」
と、泣き声で答える。
「そう?」
と、言いつつ、怪訝な目でオレを見る人。
……まぁ、オレ。
すっかり変な目で見られているからなぁ。
今更、怪訝な目で見られても。
(まぁ、いっか)
泣きながら。
家までの道を歩く。
澪への、この気持ちを。
大事に抱えたまま。
『高浜くんとの時間が、宝物だった』
思い出す。
澪が言ってくれた、あの言葉。
こんなふうに。
澪のことを思い出すことが。
きっとこの先、減っていくんだろうな。
そんなの、やだな。
いつかこの恋心が、どこかにいってしまったらどうしよう。
まだ。
まだ、澪との思い出の中にいたい。
まだ、澪のことを好きでいたい。
恋しく想っていたい。
胸に手を当てて。
この気持ちがどこにもいかないことを。
オレは祈った。