どこにもいかないで
オレも学校に着く頃には、駒澤くんに話しかけたい気持ちでドキドキしていて、山姥のことなんて忘れていた。
二年一組の教室に入ると、みんな不安そうな顔をして、ひそひそ話していた。
「?」
(何かあったのかな?)
そう思いつつ、廊下側の一番前の席を見る。
駒澤くんの席。
荷物が置いていなくて、本人もいないからまだ来ていないんだなってわかった。
(駒澤くんが来たら、挨拶をする!)
心の中でそう決めて。
駒澤くんがやって来るのを待つ。
でも。
駒澤くんがやって来ないまま、ショートホームルームの時間になった。
担任の川田先生が教卓の前に立つ。
真っ青な表情をしていることに、オレは気づいた。
「昨夜、このクラスの駒澤くんが……」
(え?)
鼓動が速くなったことがわかった。
先生が俯き、意を決したように顔を上げて、こう言った。
「……駒澤くんが、いなくなってしまいました」