どこにもいかないで




昼休み。

お弁当を食べ終わり、ぼんやりと窓の外を見ていた。

鬱蒼(うっそう)と生い茂る緑。



今朝の女子の話を思い出した。




(この山に、山姥がいるって……)



……くだらね。

今、このタイミングで思い出してんじゃねーよ、オレ。



でも。

もしも本当だったら……?



「……大丈夫?」



背中から声がした。

慌てて振り向く。



「あ、ごめん。驚かせちゃった?」



サラサラの黒髪を耳にかけつつ、上目遣いでオレを見たのは、佐田さんだった。



「……えっ、あ、オレ?」



もしかしてオレ以外の誰かに、声をかけたつもりだったのかもしれない。

そう思って尋ねると、
「あはっ、あなた以外に誰がいるの?」
と、佐田さんは笑う。



「……あ、うん。えっと、高浜です」

「佐田です」

「うん」



オレ、しゃべってる。

会話してる!

クラスメイトと!!



「なんだか落ち込んでいるみたいだったから、気になって」



佐田さんはオレの隣に立ち、窓の外を眺めた。
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