どこにもいかないで

教室に戻って、帰る支度をする。

とにかく学校から出たい。

この空間から逃げたい。



(息苦しいよ)




昇降口までやって来ると、息苦しさがだいぶ楽になった。

外靴に履き替えると、ほんの少し気持ちが明るくなる。



その時、
「高浜くん、私も一緒に帰ってもいい?」
と、佐田さんが追いかけて来た。



「……え、うん。いいよ」

「ちょっと待ってて。靴、履き替えるから」

「うん。慌てなくてもいいよ」



佐田さんは床にコンコンと靴のつま先をあてて履き、
「ごめん、お待たせ」
と、笑顔を見せた。



「バス停?歩き?」
と、オレは尋ねる。



その質問に佐田さんは答えず、
「高浜くんは?」
と、質問で返してきた。



「バス停」

「じゃあ、私もバスに乗る」

「え? 帰れるの?」

「帰れるよ。大丈夫」



何がおかしいのか、佐田さんはニコニコしている。

その笑顔が、テレビの歌番組で歌唱を終えたアイドルのホッとした笑顔みたいで、やっぱり可愛かった。
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