どこにもいかないで
「寂しい?」
「寂しいよ」
しばらく沈黙が流れた。
佐田さんは黙って遠くの空を見ている。
オレも視線を遠くにして、ぼんやり考えた。
(駒澤くん、山に行ったのは自分の意志なのかな?)
どうして山なんかにいたんだろう?
失踪しなくちゃいけない理由が、わからない。
(それもそうか。だってオレ、駒澤くんのこと、何にも知らないんだもんな)
丸いメガネをかけていて。
あまり可愛くないブタのストラップをスマホカバーに付けていた。
いつも教室でひとり、イヤホンで音楽を聴いていたっけ。
「何か考え事?」
気づくと佐田さんがオレの顔を覗きこんでいた。
整った顔が目の前にあって、ドキッとした。
美しい黒い瞳がじっとオレを見つめている。
照れて顔が赤くなる気がして、
「佐田さん、駒澤くんのことなんだけど」
と、オレは俯きつつ話をする。