どこにもいかないで
「うん?」
「駒澤くんは、どうして山にいたんだと思う?」
「……ん?」
小首を傾げる佐田さん。
可愛い仕草に、オレは本格的にドキドキしてしまう。
「山にいた理由?」
「うん。なんか、山に行かなくちゃいけないような用事って何かなって」
「どういうこと?」
「駒澤くん、あの日の夕食前に散歩に出かけて、それから行方がわからなくなったって話だっただろ?」
「うん」
「散歩の途中、自分の意志で山に行ったなら、何か理由があるのかなって」
そうじゃないと、夏の終わりとはいえ夕方以降の暗い道を歩いて、わざわざ山に行くなんて考えられない。
「オレ、その理由が知りたいんだ」
佐田さんは、
「理由……かぁ」
と、呟いた。
「失踪者が増えているじゃん?他の人達も駒澤くんと同じように山で見つかるのかもしれない」
「うん」
「理由は同じかもしれないなって思って」
「……もし他の人が山で見つかったとしても、山に行って失踪した理由が同じとは限らないよ」
冷静に答えた佐田さんは、
「……駒澤くんみたいに、みんな死んじゃったかもね」
と、呟いた。