どこにもいかないで
 
「わからないけど」
と、オレは俯いた。



「誰か、ひとりでも多く、無事でいてほしいよな」



本心からそう言った。






バスがやって来た。

佐田さんが先に窓側の座席に座った。

すぐ隣に座ることに照れ臭さを感じて、ひとつ後ろの座席に座ろうとしたら、佐田さんが振り返り、
「なんで?」
と、尋ねてくる。



「え? いや、ちょっと……」

「隣、嫌?」

「嫌ってわけじゃあ……」



もごもごと答えていると、佐田さんはニコニコ笑って立ち上がり、オレの座席の隣に座り直した。

ふいに良い香りがして、ドキドキしてしまう。



(何をドキドキしてんだよ、オレ)



冷静な心で落ち着こうとする。



(隣に座っただけじゃん)



「高浜くんって」
と、佐田さんが言う。



「高浜くんって、もしかして照れ屋さん?」

「えっ!?」

「なんか、顔が赤いよ」

「赤くないし!」
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