どこにもいかないで
恥ずかしい!
俯きつつ、
「全然、赤くないから! 元々こんな顔色だから!」
と、必死に否定してみる。
「あはっ、耳まで赤いね」
佐田さんがなぜか嬉しそうに笑っている。
(落ち着いてるよな、佐田さんって)
同い年でも、女子って大人っぽい人が多いと、前から思っていたけれど。
佐田さんはまさに大人な感じ。
動じないっていうか……。
(本当に同い年なのかよって疑いたくなる)
バス停でしばらく停まっていたバスが、発車する時間を迎えた頃。
「すみません、乗ります、乗ります!」
と、小柄な女子ふたりがかけこんで来た。
中一なんだろうな、とぼんやり思う。
前のほうの座席に座り、
「間に合って良かったー」
と、ひとりが言うと、
「むっちゃん、走るの遅いもんね」
と、もうひとりが笑っている。
むっちゃんと呼ばれた子が、
「……で? ひーちゃんは山姥の話って本当だと思う?」
と、鞄からガムを取り出しつつ、尋ねている。