どこにもいかないで

ひーちゃんと呼ばれた子は、
「信じたくないけど、山姥っている気がする」
と、慎重に答えた。



「なんで?」

「むっちゃん、知ってる?失踪した二年生、何かに食べられていたんじゃないかって話」



駒澤くんの話だ。

自然と聴覚がむっちゃんとひーちゃんの会話に集中する。



「獣か何かに食べられたのかな?」

「うん、それも怖いんだけどさ」

「え?」

「村の失踪人が多いから、猟師さん達で捜索隊を作ったでしょう?あれにうちの上の兄貴がいるんだ」



ひーちゃんがそこまで言って、オレは立ち上がり、ふたりのところまで近寄った。



「あの、ごめんなさい。ちょっといいですか?」



突然話しかけたから、むっちゃんもひーちゃんも肩をビクッとさせて驚いていた。



「オレ、二年生の高浜っていいます。その話、オレも聞いていいですか?」

「え、あ、はい……」



きっちりと三つ編みをしているひーちゃんが、オレとむっちゃんを交互に見て、頷いた。
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