どこにもいかないで
「最近騒がれているじゃないですか、山姥の存在」
ひーちゃんは声を潜めるように言う。
「私、信じたくないけれど、なんとなく失踪者が出るのも、その人達が帰って来ないのも、山姥の仕業なんじゃないかって気がするんです」
むっちゃんは寒気がしているのか、自分の両腕をさすっている。
「……いると思う? 山姥」
さっきから黙ったままの佐田さんに尋ねると、
「さぁ、どうかな?」
と、佐田さんは曖昧に答えて笑った。
……駒澤くん。
なんで山に行ったんだよ?
何があったんだよ。
聞きたくても、もう聞けないんだと思うと、胸の奥がチクリと痛んだ。