どこにもいかないで

そう言って笑う佐田さんは、夏の花が太陽に向かって咲いているみたいな人だと思った。

まっすぐっていうか。

ブレないっていうか。



「高浜くんといると楽しいよ」



佐田さんがニコニコ笑ってそんなことを言うから、オレはますます頬に熱がこもっていく実感があった。






バスに乗り、山から下りて村のバス停に帰って来たら、
「私、寄るところがあるからここでね」
と、佐田さんが言う。



「寄るところ?」

「そう。寄るところ」



佐田さんは前に一緒に帰った時も、村のバス停の前でそんなことを言って、ひとりどこかへ行ってしまった。



「ひとりで大丈夫?」
と、心配で聞くと、
「大丈夫だよ。じゃあね、また学校でね」
手を振って、オレをじっと見ている佐田さん。



(どこに行くんだろう?)



こんな時間に?

町と違って、ここにはコンビニエンスストアとかもないし。

友達の家とか?
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