どこにもいかないで
体育館から二年一組の教室へ帰って来ると、伊東さんが佐田さんに声をかけているのを見つけた。
「佐田さん、このところ大丈夫?」
「大丈夫って、何が?」
「え?」
佐田さんはじっと伊東さんを見つめて、
「……ひとりぼっちだけど大丈夫かってこと? 寂しくないか、確かめてくれているの?」
と、尋ねている。
「えっと……」
伊東さんは何て言っていいのか、迷っているみたいだった。
そんなに直球で尋ねられるとは思っていなかっただろうし。
「伊東さん、放っておきなよ」
と、女子のひとりが言う。
「佐田さんは、自分からひとりになっているようなものだって」
「え?」
と、伊東さんは女子を見る。
「話、合わないし。自分のこと、あんまり話さないし。……そんな感じだったらさ、一緒にいられないじゃん。一緒にいる意味もないじゃん。距離、縮めようがないもん」
女子の言葉に反応したのは、佐田さんだった。