どこにもいかないで
「そんなふうに見える?」
嫌味とかじゃなくて。
心の底から、意外に思って尋ねているみたいだった。
小さな子どもみたいな瞳で。
佐田さんは、女子をまっすぐ見つめる。
「見えるよ。見えるし、一緒にいると、正直疲れる」
「なんで?」
「だって、情報がない人と一緒にいるって、安心出来ないじゃん」
女子はそう言って、佐田さんを指差す。
「悪いけど、本当、疲れちゃうんだよ。自覚ないの? ……タチ悪いね」
「何もそんなふうに言わなくても」と、伊東さんは言いつつ、それでも佐田さんから離れていった。
ぼんやり見ていたオレに、佐田さんが気づく。
どんな表情をするのかと思ったら、佐田さんは嬉しそうに笑った。
その日の放課後。
佐田さんはやっぱりひとりで、帰り支度をしていた。
なんとなく気になってしまって、佐田さんが教室から出て行くと、こっそり追いかけるようにオレも後を追う。
後を追って、どうするつもりなんだ?
心の中で自分に問いかける。