どこにもいかないで

(何を気にしてるんだろう?)



不思議に思って、しかも今更出て行きづらくて、息を殺すオレ。



(カッコ悪い……)



情けなく思いつつも、しばらく彼女の様子を見守る。



佐田さんは、昇降口には行かず、もう少し歩いて中庭に向かった。



「?」



校舎の中から中庭を盗み見る。



「……こんなの、いらないや」
と、佐田さんは呟いた。



それから、鞄から何かを取り出した。



「いらない。持っていても、仕方ないしね」



ひとりでブツブツ呟いている。



取り出した何かを、彼女は中庭の草むらに投げ捨てた。



(何を捨てたんだろう?)



なぜか胸騒ぎがした。

見てはいけないものを見てしまったような気がする。



佐田さんが何事もなかったかのようにくるっと振り返ったから、オレは慌てた。

校舎に入って来る佐田さんの気配を感じつつ、廊下の柱の陰に隠れて、また息をひそめる。
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