どこにもいかないで
佐田さんはベンチから立ち上がり、オレのそばまで寄って来た。
「高浜くん、何か雰囲気が違うから」
「そんなことないよ」
「そう?」
佐田さんは美しい目を細めて、
「何もないならいいけどね」
と、笑った。
いつもなら可愛いと思って、照れてしまうところだけど。
今はその美しい笑顔が、なぜか不気味に感じる。
村に着くと、佐田さんはやっぱり「寄るところがある」と言い残し、どこかへ去って行った。
後を追いかけようかと、少し悩んだ。
だけど、オレは自分の家に向かって歩き出した。
(好きだから)
そう、オレは佐田さんを信じたい。
失踪になんて関わっていないよな?
佐田さんは、ただの中学生なんだし。
オレの知っている強くて、優しくて、美しい人。
……それだけだよな?
家に帰ると、玄関に近所のおばさんが回覧板を持ってやって来ていた。