どこにもいかないで

「お帰り」
と、母さんが回覧板を受け取りつつ、オレを見た。



「滉くん、久しぶり。中学生になって、また背が伸びたね」
と、おばさんが言う。



「お久しぶりです」



オレは返事しつつ、靴を脱ぐ。



(久しぶりって言ったって、よくゴミ捨て場で井戸端会議している人だよな? オレはよく見かけるけど)



おばさんはオレに興味はないらしく、
「でね!」
と、母さんに話しかけた。



「あそこのご主人、見つかったそうよ」

「え、失踪したっていう……?」

「そうなの!」



オレも思わずおばさんの顔を見る。

おばさんはそれには気づかず、
「山でねぇ、ご遺体で見つかったそうよ! 捜索隊の人が見つけたって。……可哀想よねぇ、奥さん、ちょっとメンタル面で通院することになったらしいわ」
と、眉毛を下げて母さんに話している。



「おつらいでしょうね……、お通夜とかお葬式は?私達もお手伝いに行かなくていいんですか?」

「ご家族だけで済ませたらしいのよ。それが……、ご遺体に問題があったらしくて」
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