どこにもいかないで
「問題?」
おばさんは声をひそめて、
「体の一部が……、その、なかったらしいのよ」
と、言った。
一瞬で母さんの顔色が真っ青になる。
「おばさん、それって……」
思わずオレはおばさんに話しかけた。
「あら、ごめんなさい。いやぁね、こんな話なんかして」
と、おばさんが謝る。
母さんは、
「……いいえ」
と、小声で答えているけれど、ショックが隠しきれていない。
おばさんはそんな母さんを見て慌てだし、
「いっけない、今日はこれから行くところがあるんだった!」
と、そそくさと出て行った。
「大丈夫?」
と、母さんに声をかける。
「……大丈夫。ビックリしただけ」
「ただの噂だよ」
と、慰めるつもりで言ったけれど。
「火のないところに煙は立たぬって言うからね」
元気のない声で返事した母さんは、
「ほら、鞄。部屋に置いてきなさいよ」
と、立ち上がり、台所へ去って行った。