どこにもいかないで
部屋に行って、机の上に鞄を置いた。
鞄のファスナーを開けると、あまり可愛いくないブタのストラップが顔を出す。
(持って帰って来てしまった……)
駒澤くんのものかもしれないと思うと、あのまま草むらに捨てられたままにしておくことは出来なかった。
(かと言って、持って帰って来るかよ、オレ)
もう後悔している自分もいる。
夕食の前。
母さんが回覧板を届けに行くというので、
「オレが代わりに行くよ」
と、玄関を出た。
「ちょっと散歩もしてくる」
と伝えると、
「もう遅いから、あんまり遠くには行かないでね」
と、母さんが不安そうに言う。
回覧板を、少し歩いたところにある隣の家のおばさんに届ける。
それから村を散歩していると、村の郵便局から不審な人が出て来た。
(誰? 見たことがない)
まだ暑いのに、長袖のスウェットを着ていて、真っ黒いキャップを目深に被っている。