どこにもいかないで

足元はサンダルで、気だるげに歩いている。



(……どうしてかな)



その人を見てから、胸騒ぎが止まらない。

なぜか、話さなくてはいけない気がしてならない。



でも声をかけるのは、オレにとってものすごく勇気のいることで。

パクパクと口は動くけれど、声を発することが出来ないでいると。



「えっと……、たか、高浜さん?」



背後から声がした。

振り向くとそこには、以前バスで見かけた小柄な女子の姿があった。



「確か……」



……むっちゃん。

そうだ、むっちゃんって呼ばれていた子だ。



「あ、あの、私、前にバスで……」
と、むっちゃんは慌てて説明し始めた。



「あ、うん。覚えているよ」



そう言いつつ、オレは遠ざかって行くスウェットの人が気になっていた。

早く声をかけないと、去って行ってしまう。



チラチラ見ている視線が気になったのか、むっちゃんが、
「何か用なんですか?」
と、スウェットの人を指差した。
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