どこにもいかないで
佐田さんは教室に入ってすぐの、自分の席に鞄を置いた。
「ね、後で話しかけに行こうよ」
と、前の席の女子が興奮気味に隣の席の女子を誘っている。
(……何それ)
ひとり、シラけた気持ちになる。
今まで佐田さんのこと、放っておいたくせに。
登校した佐田さんが可愛かったからって、勝手に盛り上がるなよ。
心の中で毒づいていると、担任の川田 美香先生がやって来た。
佐田さんに気づくと嬉しそうに驚き、拍手して迎えたその一連の流れに、心底嫌気がさした。
放課後。
佐田さんはクラスのみんなに囲まれて、何やら楽しそうに話していた。
オレはその輪には入らず、さっさと昇降口へ向かう。
教室から出て来たのは、オレだけではなかったらしく。
下駄箱を開ける時に、後ろから来ていたらしい駒澤 綾くんに気づいた。