どこにもいかないで
「私の名前ですか?」
むっちゃんはきょとんとした表情で、こう言った。
「睦美っていいます。……佐田 睦美」
「!」
……佐田?
佐田って言った?
まさか。
「あの、じゃあ、お姉さんの名前って?」
違うよな?
偶然だよな?
反射的にそう願っていたオレに、むっちゃんはトドメを刺すように言う。
「里保です。佐田 里保」
嘘だって。
心のすみで、オレのかけらが叫んでいる。
佐田 里保?
じゃあ、あの佐田さんは?
佐田 里保が。
ふたり、いる。
むっちゃんは、
「あの、高浜さん?」
と、不思議そうにオレを見ている。
「あの、聞きたいことがあるんだけど」
「何ですか?」
「この辺りにさ、きみたち家族以外に佐田さんって住んでる?」