どこにもいかないで

聞けるわけない。

きみは誰?って。

言えるわけない。

佐田 里保に会ったよって。



「……言いたくないならいいけど」



佐田さんが心配そうな顔をしている。



こういう時に無理やり聞こうとしない佐田さんに、優しさを感じつつ、ある種のずるさも見えた気がした。



(そうやって引いたら、オレが話すと思っているんだろうな)



そんなふうに考える自分も嫌で。

オレは何も言えずに俯いた。





前の席に座っている女子が、
「山姥の話、超〜噂になってるけど、信じる?」
と、隣の席の女子に聞いているのが耳に入って来た。



(また、山姥……)



「えー、怖くない? そういう話」

「いやぁ、どうかとは思うんだけどさー。でもこんなに噂されているとさ、そうなのかなって思っちゃうじゃん」



「……」


オレは女子達の話を黙って聞いていた。

すると佐田さんが、
「高浜くんって、山姥の話が好き?」
と、聞いてきた。



「え?」



思わず佐田さんを見てしまう。
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