どこにもいかないで

「山姥の話になると、なんかその話のほうに集中しちゃうよね?」

「あ、ごめん……」



気を悪くしたのかと思って、慌てて謝る。

すると佐田さんはニッコリ笑って、
「山姥に会いたい?」
と、聞いてきた。




「えっ?」






「難しいことは聞いてないよ。山姥に会いたいかどうか、尋ねただけ」



ニコニコ笑っている。

その笑顔が美しくて。

なんだか不気味だった。



何か言わなくちゃ、と思った時。

昼休みが終わって。

五時間目の予鈴が鳴った。



内心ホッとしてしまった。




佐田さんは残念そうな表情で、
「じゃ、また後でね」
と、自分の席に帰る。



前の席の女子がわざわざ振り返って、
「高浜くんってさ、佐田さんと付き合ってんの?」
と、ニヤついている。



「違う」

「へぇ〜、どーだかねぇ〜」







ニヤニヤされて、イラついた。
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