どこにもいかないで
放課後。
まだ早い時間。
佐田さんが昇降口で待っていた。
「一緒に帰らない?」
「……うん」
頷き、外靴に履き替える。
校門を出てバス停に来るまで、オレ達は黙っていた。
「あのさ」
と、沈黙を破ったのは、佐田さんだった。
バス停のベンチに座り、そばに立っているオレを見上げている。
「考えてたんだけど、高浜くんは何かを知ったよね?」
佐田さんはニコニコしている。
「え?」
何かを知った?
その言葉を聞いて、オレは思った。
(やっぱり……)
「何を知ったの?」
佐田さんは相変わらず笑っている。
でも、その声が少し涙声であることに、オレは気づいた。
佐田さんに本当のことを話したら、オレはどうなるんだろう?
失踪に関わっているかもしれない人に。
他人になりすましている人に。
気づいたことを突きつけて。
オレ、無事でいられる?