どこにもいかないで
「何? さっきから高浜くん、やっぱり変だよ」
と、佐田さん。
腹をくくるしかない、そう思って、
「佐田さんは、……佐田 里保さんは、きみとは別人だよね?」
と、言った。
目の前の彼女は涙目のまま。
じっとオレを見た。
それから決意したような瞳で、こう言った。
「私の名前は、澪」
「……!」
「なぁんだ、本物の佐田さんのことを知ってたんだ」
「いや、偶然会っただけ」
「あ〜ぁ、高浜くんと友達になりたかったな」
「……」
澪と名乗った彼女はベンチから立ち上がり、風になびく黒髪をおさえつつ、こう言った。
「私、高浜くんが興味を持っている山姥だよ」
「……え、どういうこと?」
何かの聞き間違いかと思った。
でも、澪はニコニコ笑って、再びこう言う。
「駒澤くんと最後に会ったのは、私なんだ」