どこにもいかないで
「……どうして、佐田 里保になりすましているの?」
「都合が良かったんだ」
「都合?」
澪はクスクス笑って続ける。
「村のおばさん達が話しているのを聞いてね。佐田さんの家の里保ちゃんは、全然家から出てこないのねーとか」
「……」
「誰とも関わらない子なら、なりすますのにはちょうど良かった。そもそも本人の顔を知っている人は少ないみたいだったし、私と顔が違ってもバレないと思った」
「……」
「それにね、中学に行けば、連れ去る人を見つけることも簡単なんじゃないかなって思った」
つまり……、澪は佐田さんを名乗ってなりすまし、物色していたってこと?
母親に差し出すために?
「そんな……」
「ガッカリだよね? ……ごめんね、私、こんなので」
澪はニコニコ笑って言う。
笑ってはいるけれど。
オレには、つらそうに見えた。
「駒澤くんのストラップ……」
と、オレは呟く。
「ストラップ?」
「ブタのストラップ、中庭に捨てていたのを見てた」
「……うん」