どこにもいかないで

「なんできみが、駒澤くんのストラップを持っているんだろうって、不思議だった」

「可愛いと思っちゃったの」

「でも、捨てていた」

「そう。だって、私が持っていたら疑うでしょう? こんなふうに、わかっちゃうでしょう?」

「……」

「駒澤くんね、あの日、助けてくれたんだよ」

「え?」



澪は俯く。



「夕方にね、村の中を見て回っていたの。高浜くんが住んでいる村の、隣のほう。山に近い場所でね、道に迷った」

「……」

「駒澤くん、散歩をしていたみたいで、私を見つけて声をかけてくれた」



澪は顔を上げて、オレを見た。



「迷ったって言ったらね、家まで送ってあげるよって言ってくれて。ふたりで山にある私の家まで行くと、見つかったの」

「見つかったって?」

「駒澤くんが、お母さんに」



「!!」




「お母さん、空腹で機嫌が悪かった。駒澤くんを見たらニコニコ嬉しそうに笑って、家の中に招き入れた」

「……」

「ひどいよね?」

「……」
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