どこにもいかないで
「泣かないでよ、私までまた泣いちゃうじゃん」
「……泣けばいいじゃん」
澪の大きな目が揺れた。
それから宝石みたいに輝く涙が溢れて、こぼれていく。
「……もう、こんな生活やだ」
澪はオレをまっすぐ見ている。
オレは一歩、一歩と、ゆっくり澪に近づいた。
目の前にいるのは。
山姥だ。
オレのクラスメイトを食べた、山姥だ。
澪は手を伸ばし、オレの制服のシャツを掴んだ。
「私、人間になりたい。……このまま、佐田 里保として生きたい」
「……っ」
「もう食べないようにするから、お願い、嫌わないで。もうお母さんにも調達するような真似はしないからっ!お願い、そばにいて……!」
シャツを掴む手が、震えていた。
「お願い、お願いだから……」
澪は潤んだ瞳で、オレの顔をのぞきこむ。
「……どこにもいかないで」
オレはぎゅっと目をつむった。
まつ毛におされて、涙が次々と落ちていく。