どこにもいかないで

「……オレと」
と、オレは言った。



目を開けて。

泣き顔の澪を見る。







「オレと一緒に、どこか遠いところに行こう」






「えっ?」
と、澪の手の力が、一瞬だけ緩くなった。



「一緒なら、何とかなるよ」

「……本当?」

「一緒に、どこかでやり直そうよ」



オレの言葉に、澪は頷く。

口角を上げて、オレをじっと見つめて。



「嬉しい」
と、呟いた。



「約束する。もう、人間は食べない。お腹が空いても、我慢するから。……ねぇ、だから、約束してくれる?」

「ん?」

「私のそばにいるって。ふたりで遠くに行くって、約束してくれる?」



澪の手が震えていた。



オレは、
「わかった」
と言って、彼女を抱きしめた。




ぎゅっと両手で抱きしめて。



「約束する。オレ達はずっと一緒だよ」



そう囁くと、澪の両手がオレの背中にそっと回った。
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