どこにもいかないで

好きだと思った。



愛おしいと思った。




離したくない。



ずっとそばにいたい。




……本心からそう思っているのに。

澪がそんなオレの気持ちを疑っていることが、なんとなく伝わった。



(大丈夫だから)



細く、華奢な体を抱きしめていると、切ない気持ちになる。



この小さな体で。

澪はどれだけのものを背負って生きているんだろう。






足音が遠くのほうから聞こえてきた気がして、オレ達は我に返った。




「誰か来る」



澪が恥ずかしそうに言う。

照れているんだとわかる。

可愛いと思った。



「こっち、来て」
と、オレは澪の体を離し、手を繋いでバス停から離れた。






教室から出たのは、まだ放課後といっても早い時間だったから、誰もいなかったけれど。

腕時計で時間を確認すると、下校のピークを迎える時間に近づいている。



(バス停でハグしているなんて、目立つよな)



改めて考えると、オレの顔も赤くなってくる。
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