どこにもいかないで
「あの、どうかしましたか?」
声をかけると、女の人は真っ青な顔をしていて、
「……すみません、ちょっと調子が悪くて」
と、お腹をさすりつつ、小さな声で返事をした。
妊婦さんだ、と思った。
何かあったら大変だと、オレは少し焦る。
「大丈夫ですか?歩けますか?」
「あの、はい……。少し休めば、大丈夫です」
女の人がオレを見る。
多分三十代くらいの、髪の毛の長い女の人で。
ものすごく美人だと思った。
オレの後ろから澪が、
「どうしたの?」
と、近寄って来る。
オレは澪を振り返り、
「体調が悪いんだって」
と、伝える。
「オレ、スマートフォンを持っているので、救急車を呼びますか?」
そう言って女の人を見ると。
なぜか、女の人は笑っていた。
「え?」
咄嗟に澪を見た。
どういうことなのか、よくわからなかったからだった。
澪は、真っ青になっていた。