どこにもいかないで
「……待って」
と、オレは思わず呟いた。
このままでは、オレも澪も、山姥に殺されて食べられてしまう。
「待ってください、オレ、……に、逃げません」
「ダメ!!逃げて!!高浜くんっ!!」
山姥は嬉しそうにニヤニヤ笑って、
「ふふふっ、坊やは聞き分けがいいじゃない。よし、私達の山小屋に招待するからね。坊や、ついて来な」
と、歩き出した。
一歩、一歩と。
山姥は歩く度に、乾燥した肌が潤い、髪の毛もサラサラになっていく。
服装も、いつの間にか泥のついた服ではなく、さっき着ていた清潔そうな洋服に変わっていた。
山道を歩いていると、
「なんで逃げないの」
と、澪が小声で尋ねてくる。
「きみを置いて行けないよ」
オレも小声で答える。
「……ばか」
なんて言うけれど、美しい目をキリリと輝かした澪は、
「私が必ず、あなたを逃がすから」
と、言った。
山小屋に着いた。
嗅いだことのない臭いが漂っている。