どこにもいかないで
「……ごめん」
「高浜くん、聞いて。今、お母さんは台所に行っている」
「え?」
「あなたと私を食べるために、料理をしているの」
「……っ!」
「ここに戻って来る前に、あなたはこっそり山小屋から逃げて」
「そんなことをしたら、きみがひどい目に遭うよ」
「うん」
「殺されてしまうよ!? 食べられるかもしれない!」
澪は黙って頷く。
いいの、っていいながら。
「私はいいの。悲しむ人なんていないから」
その言葉に、オレの胸の内側がざわついた。
「悲しいよ」
と言ったら、目の前の世界が歪んだ。
涙が次々とあふれてくる。
「悲しいに決まってる。オレは、オレは……!きみと一緒にいたいんだから」
澪も目に涙を溜めて、
「でも、私のことなんてもう、嫌いになったでしょう?」
と、呟いた。
「……嫌いになんかならない」
「え?」