どこにもいかないで
目の前にいる澪をじっと見つめた。
「好きだよ」
湿った声で。
澪に伝える。
「好きだよ、澪」
「高浜くん……」
オレは手を伸ばし、澪のひざに置いてある彼女の手の上から包むように、自分の手を重ねた。
「約束したじゃん。一緒にどこか遠いところへ行こうって」
「うん」
澪の涙が手の甲に落ちてくる。
「好きな子にしかこんなこと言わないし、約束しない」
「うん」
「……そうだよ、弱気になってちゃいけないよな? ふたりで遠いところに行ってさ、やり直そうよ」
澪が黙って頷く。
「きみと生きていきたい。……オレの気持ちを全部、きみにあげたいんだ、澪」
目の前のこの子は。
山姥だけど。
何人もの命を奪って。
きっとその人達を食べたんだろうけれど。
オレは知っている。
教室でひとりでいるオレに。
駒澤くんのことで落ち込んでいたオレに。
唯一、声をかけてくれた子で。