どこにもいかないで
澪は考えて、
「裏口なら台所を通らなくてもいいんだけど」
と、言う。
その思案顔が気になり、
「けど?」
と、尋ねた。
「裏口は台所と反対側の、トイレのすぐそばの廊下を歩いてすぐのドアでね」
「うん」
「この小屋は古いし、廊下はギシギシと音が鳴るの。それに、裏口のドアも錆びていて、ギィッて大きな音を立てないと開かない」
でも、そこを通らないと脱出が出来そうにない。
「なんとか走って逃げられるかな?」
オレが言うと、澪は少しいたずらっ子の顔になって、
「高浜くん、足が遅そう」
と、呟いた。
「うるさい」
呟きながら、可笑しくなってクスクス笑ってしまう。
澪も嬉しそうにニコニコしていた。
(あぁ、やっぱり好きだな)
澪の笑顔に。
オレは途方もなく救われる。
山姥は台所から出て来ない。
水音がチャポンチャポン聞こえる。
(何の音だ?)
と思っていたら、
「お酒を飲みつつ、料理しているんだよ」
と、澪が説明してくれた。