どこにもいかないで

「酔っ払うかな」



オレが尋ねるでもなく呟くと、
「わからない。日によって違うから」
と、片手を耳の後ろで立てつつ、答えてくれる澪。



「でも、今の内に逃げよう。お母さん、料理に集中しているだろうから」



オレ達はこっそりと部屋のすみのほうへ移動した。

廊下の前まで来る。



「廊下の音も、大きな音がするの?」



踏み出す前に、澪に尋ねると、
「ギシギシって大きな音がするから、逃げられた人がいないんだよ」
と、暗い顔をする。



どうしよう?

逃げられた人がいないという事実に、今更怯んでしまう。




「廊下に出たら、とにかく全速力で逃げよう」



澪がオレを励ますように言う。



「もしもの時は、私のことは構わずに逃げてね」

「そんなこと……」

「絶対に後から追いつくから」



悲しい気持ちになって、素直に頷くことも出来ないままでいたその時。



「高浜くーん!」
と、外から声がした。
< 81 / 120 >

この作品をシェア

pagetop