どこにもいかないで
「酔っ払うかな」
オレが尋ねるでもなく呟くと、
「わからない。日によって違うから」
と、片手を耳の後ろで立てつつ、答えてくれる澪。
「でも、今の内に逃げよう。お母さん、料理に集中しているだろうから」
オレ達はこっそりと部屋のすみのほうへ移動した。
廊下の前まで来る。
「廊下の音も、大きな音がするの?」
踏み出す前に、澪に尋ねると、
「ギシギシって大きな音がするから、逃げられた人がいないんだよ」
と、暗い顔をする。
どうしよう?
逃げられた人がいないという事実に、今更怯んでしまう。
「廊下に出たら、とにかく全速力で逃げよう」
澪がオレを励ますように言う。
「もしもの時は、私のことは構わずに逃げてね」
「そんなこと……」
「絶対に後から追いつくから」
悲しい気持ちになって、素直に頷くことも出来ないままでいたその時。
「高浜くーん!」
と、外から声がした。