どこにもいかないで

「坊や、ここじゃないどこかって、どこなんだ? やり直すって、どうやって?」

「……」

「何も答えられないじゃないか。聞いているこっちが恥ずかしいよ」

「……!」

「澪!! さぁ、早くこっちへ来な!!」



澪の母親は出刃包丁をオレに向ける。



「こいつのことは食べて忘れな!! 何度も言わせるんじゃない!! 私は空腹でイラついているんだよぉおぉ!!」



オレの後ろで。

澪が小さな声で、
「嫌だ……」
と、言った。







でも。

澪の足は。

母親のほうへ一歩、進んだ。






(……あっ)




絶望感がオレを襲う。









その時。



「高浜くん!!! 逃げろ!!!」
と、大声がした。



大きな銃声が、パァンと部屋に響く。





「やめて!!!」





叫び声がした。

その声が。

澪の声だとわかるのに、少し時間がかかった。
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