どこにもいかないで
澪の目が、揺れる。
彼女と目が合うように、オレは澪の顔をのぞきこんだ。
「好きだった。……高浜くんと同じ教室にいた時間は、ほんの少しだったけれど」
「澪、もう話さなくていいから」
「高浜くんとの時間が、宝物だった」
「うん」
「私が、私を忘れられた時間だったの……」
澪のシワシワの目から涙がこぼれる。
「そんな、……そんなこと言わないで。オレとの時間は、まだまだこれからだってあるじゃん」
「……高浜くん」
「助かるよ、大丈夫だから」
「ううん」
「澪」
と、名前を呼んだら。
オレの涙が、澪の頬に落ちた。
「助かるから、絶対に……!」
「いいの」
と言った澪の口元が、かすかに笑っていた。
「いいの、助からなくても」
「そんなこと言わないで」
頬に当てたままの澪の手がかすかに動いて、指先でオレの涙を拭う。
「叶うはずないって、わかっていたけれど」
そう言う、澪の声が小さくなる。